シロアリのライフスタイル

1.シロアリの住まい
 人にとって住まいというのは、食事、睡眠、育児に家族の団欒の場などとして生活の中心になる場所です。住まいで安らぐためには雨風をしのぎ、暑さ寒さをある程度調整できて、防犯対策がなされていることが大切ですが、シロアリの住まいでも同じことが言えます。
 宮城県には生息していないイエシロアリは大きな巣を作ります。一方、ヤマトシロアリはそのような特定の巣は作らず、餌場と住まいがいっしょになっています。とは言ってもエサとなる木材の中を無造作に食い荒らしていくのではなく、
蟻土と呼ばれる土を木材の中に持ち込み、仕切りを作ったり部屋を作ったりして生活しています。

 人の家屋に被害を与える害虫ということで恐れられるシロアリですが、実はシロアリは非常に弱い生き物です。外気にさらされることを嫌い、天敵も多いので活動場所を外界から遮断することは、危険から身を守るために重要な役割を果たします。
 また、ヤマトシロアリは生きていくうえで水分は欠かせません。ヤマトシロアリが活動中の食害箇所は間違いなく湿っています。これはもともとその場所が湿っていたのではなく、シロアリが水を運んで湿らせているのです。乾燥した木材であってもシロアリの行動範囲内に水分を補給する場所があればそれを運んで住まいを適度な湿度に保つことができるのです。
安全快適に暮らしたいというのは人もシロアリも同じなんですね。
イエシロアリの巣
掘り出された
イエシロアリの巣


ヤマトシロアリの活動場所
ヤマトシロアリの餌場を暴いたところ。木の中に土が持ち込まれている。
   
2.職蟻の仕事
 ヤマトシロアリの集団のほとんどを占める職蟻はさまざまな仕事をこなします。女王や兵蟻など他の階級のシロアリは自ら栄養を取ることができないので職蟻が与えます。他にも巣の構築や清掃、卵の世話など毎日忙しく働いています。集団から兵蟻ばかりを集めて職蟻から隔離すると1週間程度で全滅してしまいます。それだけ職蟻の仕事は大事なのです。

 家屋などにシロアリが侵入する時のように、土壌と木材が離れているような時には
蟻道と呼ばれるトンネル状の道路を作ります。外敵から身を守る、空気の流れを嫌うためにこのような道をわざわざ作って行き来します。とにかくシロアリは外に出て活動することはほとんどありません。外に出るのは羽アリぐらいであとはその一生を暗いところで生きていくのです。でも羽アリ以外のシロアリは目が退化しているので暗いとか明るいとかは感じませんけど・・・。

 
蟻道を構築するシロアリ
   蟻道を構築する職蟻とそれを監督者のように見守る兵蟻。
   職蟻曰く、「兵蟻邪魔だな」
ヤマトシロアリ
働き者の職蟻
イエシロアリの蟻道
屋外に作られた蟻道
(イエシロアリ)

ヤマトシロアリ蟻道
べた基礎だってなんのその。(ヤマトシロアリ) 時には外にも蟻道を造る
   
太い蟻道 途中で上るのを止めた蟻道
通常、蟻道は5mmくらいの幅。これはちょっと太め。それだけ活性が高い集団ということ。 途中で登るのを止めた蟻道。このまま行けばエサにありつけるなんてシロアリは知りようがない。
   
こういう一見なんだかわからないものを作るのも職蟻の仕事。 掘り出したイエシロアリの巣。イエシロアリはヤマトシロアリに比べて頭数は多いんですがそれにしても立派な仕事。
   
私が遭遇したヤマトシロアリのものでは、現在のところ一番太い蟻道です。  蟻道を少し壊したところ。土壌と木部を行き来する大事な道なのでこの破壊された箇所は職蟻によって修復される。
 これはヤマトシロアリの群飛口ですが、これを造った職蟻の芸術性を感じます。  ひっくり返って造るのが大変だったと思われる蟻道。

3.シロアリ自衛隊
 シロアリには外敵が多いです。昆虫のみならず、鳥やらカエルやらチンパンジーやらありとあらゆる生き物がシロアリを狙っています。ある国では人間もシロアリを食べます。それもそのはず、シロアリは非常に栄養価値が高く、他の動物にとっては貴重な栄養源になるからです。

 そんなシロアリなので集団にはいざというときのために兵蟻が待機しています。防衛の任務にあたる兵蟻は自衛隊のようなものですが、通常の生活時には何もしません。自分でエサをとることもできないし、うろうろしているばかりでむしろ職蟻の仕事の邪魔です。有事には事にあたる兵蟻ですが、その防衛方法はシロアリの種類によって異なり性格が現れます。

 イエシロアリは兵蟻の数が多く、その性格は攻撃的です。巣を壊そうものならぞくぞくと兵蟻が現れ噛み付いてきます。さらに噛み付いた後には乳液状の分泌物をだし敵を攻撃します。イエシロアリは巣を中心に活動するタイプなので、敵が攻めてきたからといって巣を捨てて逃げ出すわけにはいきません。自分の家はなんとしても守るという意気込みで兵蟻は戦っているはずです。

 それに比べてヤマトシロアリの兵蟻はほとんど攻撃をしかけてきません。むしろ他のシロアリと一緒に逃げ出します。ヤマトシロアリの場合、イエシロアリのような巣を作らず、生息場所にはこだわらないタイプのシロアリなので「逃げるが勝ち」の戦法をとります。それならまったく役に立たなそうなヤマトシロアリの兵蟻ですが、いざというときには通路に自分の頭を突っ込み、道をふさいで命と引き換えに他のシロアリが逃げる時間稼ぎをします。普段はまったく役に立たない奴ですがしんがりを勤める兵蟻は、本当は大和魂ならぬヤマトシロアリ魂を持った武士なのです。
イエシロアリの兵蟻
巣を壊すと続々現れるイエシロアリの兵蟻

イエシロアリの兵蟻
噛み付いたら離さない


ヤマトシロアリ兵蟻
逃げるヤマトシロアリの兵蟻
クロアリにつかまった兵蟻 ヤマトシロアリの兵蟻集団
クロアリにつかまったヤマトシロアリの兵蟻。クロアリはシロアリの天敵ですが、それにしても兵蟻という名でいかつい格好のわりには弱いです・・・。 ヤマトシロアリの兵蟻集団。一見イエシロアリに思える巣と兵蟻の集団です。
クモに連行される兵蟻。 シロアリがやっと1匹通れるような狭い通路は、外敵に対して兵蟻が守備しやすい。(写真に写っているのは職蟻)
上がイエシロアリ、下がヤマトシロアリの兵蟻。大きさも違いますが頭の形が違います。兵蟻の姿形や行動の違いはその種の生態をよく現しています。



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