シロアリじゃなくてクロアリの話
居室内に侵入してきた場合の対策など

1.シロアリとクロアリ

 クロアリはシロアリと違って野外で活動できるため人目につく機会が多く、よく知られた身近な昆虫です。それに比べてあまり人目につかないシロアリはその名前のせいか、クロアリの仲間と思われがちです。ですが実際はシロアリとクロアリはまったく別の進化をたどってきた昆虫でクロアリの祖先はハチシロアリの祖先はゴキブリで約1億年から3億年前にはすでに別々の系統に分かれています。進化した結果が現在のように似ている生態を持つ社会性昆虫になったということで、生物の進化の過程を研究されている方には興味があることだと思われます。

 シロアリにとって一番の天敵はクロアリです。逆にクロアリからすればシロアリは貴重な栄養源です。かなり仲の悪い、というよりも一方的にシロアリがいじめられているのですが、自然界の中ではひとつの枯れ木にクロアリとシロアリの両方の巣があるというのも珍しくありません。一説には攻撃力の弱いシロアリがクロアリと同居することでクロアリに外敵から守ってもらい、その代わり自らを栄養源として与えているというギブアンドテイクの関係説もあります。

クロアリ


シロアリとクロアリの同居
クロアリとシロアリの卵
クロアリはシロアリの天敵ですが、クロアリがいればシロアリが来ないというのは間違い。

クロアリとシロアリの主な違い
クロアリ シロアリ
英語名 ants termites(決してwhite antsではない)
昆虫網でのグループ 膜翅目 等翅目
祖先 ハチ ゴキブリ
世界中の種類 約1万2千種 約2千2百種
食物 雑食 セルロース
家屋への害 基本的に木材をエサとすることはできないので家屋自体に被害は及ぼさないが巣を作ることがある。 枯れ木と間違って家屋の木材を食べるので害がある。
人への害 噛み付く。特に乳幼児の口まわりに残った食べ物を狙ってくる場合があるので注意。他には家の中に進入した場合、人によっては不快感を与える。 イエシロアリの巣に手を突っ込まなければ噛み付かれることはない。他に羽アリとなって大量に姿を現したときには人によって不快感を感じる。

2.クロアリの種類

 一口にクロアリといっても種類が異なれば生態も異なります。家屋に営巣するもの、単純にエサを探しに家屋に侵入してくるもの、タンパク質を好むもの、糖質を好むものなど種類によって変わってきます。ホームセンターなどで販売されている巣ごと駆除するもの(アリの巣コロリなど)が効果があったりなかったりするのはそのためです。まずは対象のアリの種類を見分けることが重要です。

家屋に侵入するクロアリの主な種類
(種名をクリックすると日本産アリ類画像データベースにリンクします。写真、生息地域が確認できます)
種名 体長 主な食性 羽アリの時期 その他
ヒメアリ 1.5mm 動物性タンパク質 8月 お尻が黒く体がゴールド。人の皮脂などを求めて浴室などを歩くことがある。
ルリアリ 2mm 動物性タンパク質 6月 東北地方にはいない種類。肉食性が強く蜂を襲うこともある。機械の潤滑剤(グリス)を食べるので自動車やパソコンなどに侵入することもある。
サクラアリ 1〜2mm 動物性タンパク質 10〜11月 コロニーの頭数が大きい。比較日当たりの良い乾燥した場所を好む。
アミメアリ 2.5mm 動物性タンパク質 「アカアリ」と呼ばれるものはこの種の場合が多い。定住する巣を作らず、頻繁に移動しながら生活する。
トビイロケアリ 2.5〜3.5mm 糖質 7〜8月 家屋のシロアリの食害跡や腐朽部に営巣する。シロアリに似た蟻道を作る。
クサアリモドキ 4〜5mm 糖質 7〜8月 家屋内部にイエシロアリのような巣を作ることがある。
ムネアカオオアリ 7〜12mm 糖質 5〜6月 多少湿った木材であれば穿孔してしまう。その際おが屑に似たものが残る。
ミカドオオアリ 8〜11mm 糖質 5〜6月 朽木などに巣を作る。ムネアカオオアリほどではないが赤っぽく、クロオオアリより体に光沢がある。
アルゼンチンアリ 2.5mm 糖質・タンパク質 外来種。1993年に広島県廿日市市で国内で初めて生息が確認され、分布域を広げている。活動温度5℃〜35℃と広く冬眠しない。自ら巣を構築せず、石や落ち葉などの隙間を利用して生活する。攻撃性が強く、在来種のアリが駆逐されてしまうため生態系への影響が懸念される。
参考:日本産アリ類画像データベース


3.クロアリ対策

 クロアリは木材が腐朽していたりシロアリに食べられたりしている場合はその木材に営巣する種類がいますが、木材が健全であればシロアリのようには食べません。少し湿ったりした木材を強引に穿孔するのはムネアカオオアリくらいです。また、家屋内には営巣せず、たまたまエサを探している最中に家屋内に侵入してしまう種類もいますし、外の羽アリが蛍光灯の明かりに寄ってきただけという場合もあります。ですから、クロアリを見つけたらとにかく駆除というのではなく、異常に侵入してくる場合や特別な場合を除いては少し様子を見ても良いと思います。
 薬剤を使用してクロアリを駆除する場合は、対象のアリの食性や薬剤の性質が大切です。一般に販売されているスプレータイプの殺虫剤は合成ピレスロイド系のものが多いので、薬剤に直接触れたアリは駆除されますが、触れなったアリは死にません。ただ、薬剤が散布された箇所はしばらくアリは寄ってきません。アリの巣コロリのような遅効性の薬剤の場合、アリの食性によって運んだり運ばなかったりするので、対象のアリの種類が分からないと無駄になります。
 注意が必要なのは、屋外に薬剤を使用する場合、絶対に飛散させたりしないことです。よく家屋の周りに白い粉剤を撒いているお宅を見かけますが
風で飛び散る可能性があり大変危険です。液剤であっても流出に注意が必要で、特に雨の日などの使用は避けましょう。
 また、アリによく効く薬剤というのは蜂にもよく効いてしまう薬剤です。養蜂場が近くにあったりするときは十分に気をつけなければなりません。
それからクロアリが床下から侵入してきている場合や家屋内に営巣され、そこから居室内に侵入してきている場合、屋外に対策を施しても意味がありません。その場合は信頼のおける業者さんに依頼したほうが良いと思います。その際シロアリの場合と同じように床下全面に薬剤を散布するというような対策を勧めてくる業者さんはお勧めできません。基本的にクロアリはシロアリよりも薬剤に敏感ということですし、ましてや木材を食害しないのに関係ないところに薬剤を使用する必要はまったくありません。

4.クロアリあれこれ写真
アカアリ 基礎を這うクロアリ
クロアリならぬアカアリ(アミメアリ) 床下から侵入中
   
基礎を這うクロアリ 羽アリを捕らえたクロアリ
基礎の周りにはよく巣をつくる シロアリの羽アリを捕まえたクロアリ。
   
クロアリの蟻道 クロアリの蛹の抜け殻
クロアリも立派な蟻道を造る 押入れに残されたクロアリの蛹の抜け殻
   
床下に砂のかたまりが・・・ キイロケアリ
床下に何やら砂のかたまりが・・・ キイロケアリが一粒一粒運んだものでした。
   
2階の柱に作られたクロアリの蟻道 たくさんいても家屋へのダメージはないです。
   
比較的大型種のクロオオアリ。雌の羽アリは体長2cm弱。羽アリがまだ飛び出す前で、おそらくこの辺りが巣と思われますが、木材へのダメージはまったくありません。  トイレの壁をうろうろしていた大型種のミカドオオアリ。
   
 床下を徘徊していたムネアカオオアリ。写真右の羽はシロアリの羽アリのもの。 サクラアリ。体長が1〜2mm程度と小さく、黄色っぽい体色をしている。
   
シロアリの蟻道を破壊してうろつくムネアカオオアリ。これに攻められてはひとたまりもないです。  一見イエシロアリかと思うほどの巨大なクサアリモドキの巣。この家屋には同程度のものがなんと3つも。


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